「衣服の着用の仕方が衣服の寿命に関わっている」と意識して生活している方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
実は、生活の中には衣服の寿命を縮める様々なリスクが存在しています。
ここでは、衣服の寿命を縮めかねない"良くない着用例"を中心にご紹介します。
本当に着用方法で衣服の寿命は変わるのか
近年スニーカー専門のクリーニング店が登場したり、こだわりの家庭用洗濯洗剤が開発されたり、オシャレや洋服が好きな方を中心に衣服のメンテナンスに関心が高まっています。それは、多くの方が自宅での洗濯で「衣服の色が落ちた、衣服が縮んでしまった」というトラブルを身近に経験し、メンテナンスの重要性を認識されているからだと思います。
そう考えると衣服の寿命には、着用方法よりもメンテナンスの方が深く関係しているということなのでしょうか。
もちろん、メンテナンスはとても大切です。汚れやシミを放置してしまえば新たなダメージの元にもなりますし、ある程度のダメージは正しいメンテナンスで補うことができます。
しかし、そもそもメンテナンスをする前の衣服のダメージが少なければ少ないほどメンテナンスは楽になりますし、衣服にとって負担も少なくなります。
つまり、着用時のダメージを減らすことがメンテナンスの効果を十分に発揮することにもなりますし、ひいては衣服の寿命を保つことができると言えるのです。
それでは「衣服の寿命を短くしてしまう着用方法」とは、一体どのような着用方法なのでしょうか。具体的な例と、その結果を解説していきます。
誤った着用方法
リュックやショルダーバッグの着用
このホームページ内の別コラムでも何度も登場している事例(ビジネスリュックがスーツを傷める理由)ですが、リュックやショルダーバッグによる衣服への摩擦は、毛玉や脆化を招き生地を傷めます。ダメージの大小は生地の種類により異なりますが、例えばスーツの場合はリュックやショルダーバッグを背負うことで負荷や摩擦がかかる部分(肩や腰のあたり)にアタリが発生することがあります。
またアクリルなどの合成繊維で作られた製品は、鞄が触れるだけで簡単に毛玉が出来ることがあるので、注意が必要です。
参考:毛玉について
習慣的に、ポケットに物を入れている
携帯やお財布・リップや鍵などの小物を持って出かける時、ポケットはとても便利です。しかし、一時的ではなく日常的にポケットに物を入れることが、衣服にとって負荷をかけてしまうことがあります。
例えば、お尻のポケットにお財布を入れている人や、ワイシャツの胸ポケットに首から下げるIDカードやタバコを入れている人をよく見かけます。
日常的にポケットに物を入れる行為は、衣服の製造時に想定されていない方向に負荷がかかり、最終的には破れてしまうことに繋がります。日常的にお尻のポケットにお財布を入れる行為は、衣服だけでなくお財布の形をも変えてしまうことに繋がりますので、できれば避けた方が良いでしょう。
また、ポケットにたくさんの物(大きなもの)を入れることも、縫い目に負担を掛けてしまいます。
香水を直接衣服に吹き付ける
香水をつける時、香りをまとう方法はいくつかありますが、直接衣服の上から吹き付けている方はいませんか?香水を衣服の上から直接吹き付けてしまうと、香りが強くなりすぎたり、衣服にシミがついたりしてしまう可能性があります。
成分にもよりますが、一般的に香水のシミは落としにくい上、さらにそれがドレスやデリケートな素材の衣服の場合は今後の着用を諦めなければならなくなることもあります。
香水をつける時には、香水を吹き付けたコットンなどで優しく肌に香りを移したり、自身の頭上の空間部分に香水を吹き付けるなどの工夫をして、衣服に直接香水が付かないようにすることが大切です。
ドライ品やデリケートな素材の衣服を着用してパーマをかける
美容院に行ったあとは、そのままお出かけしたい気分になります。実際、美容院後に別の予定を入れ、お気に入りの服を着て出かける方も多いと思います。
しかし、しばらくしてからその衣服にシミが見つかったら、とても残念な気持ちになりますよね。そのシミの原因は、もしかするとパーマ液かもしれません。
美容院では襟足から薬液が垂れて衣服を汚さないよう、細心の注意を払って施術しています。しかし、それでも薬液が衣服に付着してしまう事故が起きる場合もあります。
その薬液に色が付いていたり高粘度のものであれば、すぐに付着に気づける可能性が高くなりますが、無色透明でサラサラとしているパーマ液などの場合は、その場で気づくことが大変難しいのです。
目には見えなくとも、付着してしまったそのシミは確実に時間をかけて顕在化します。場合によっては、クリーニング時の熱処理(乾燥時など)によって顕在化することもあるのです。
薬液の付着による事故を利用者が防ぐことはできませんが、美容院で薬液を用いた施術をする際にはドライ品やデリケートな素材を避け、さらに首元の開いた(又は首元が開けられる)デザインの衣服を選んだほうが安心です。
突起が多いものや奇抜なデザインのアクセサリーを、デリケート品に合わせる
素材や密度にもよりますが、一般的にセーターやデリケートな素材は引っかかりやすく優しく取扱う必要があります。しかし、そんなセーターに、突起が多いものや奇抜なデザイン(いわゆるゴツめ)のアクセサリーを合わせている方はいらっしゃいませんか?
首や手首周辺は衣服とアクセサリーが直接触れますし、衣服の脱着時などは場合によってはアクセサリーが衣服を引っかけてほつれてしまったり、生地を傷めてしまうことにもなりかねません。
程度にもよりますが一度引っかかった部分の修理は容易ではありませんので、ゴツめのアクセサリーを付ける時には引っかかりに注意し、強度のある衣服と合わせるようにしましょう。
同じ服を連続着用する
お気に入りの衣服や着心地の良い衣服は、毎日でも着用したくなります。しかし同じ衣服を連続して着用することは、メンテナンスをする時間が十分に取れないことや、衣服を休ませないことで単純に劣化のスピードを上げてしまうことに繋がるため、衣服にとっては良いこととは言えません。
お気に入りの衣服だからこそ毎日着用したくなりますが、お気に入りの衣服だからこそ!連続着用は避け、休ませながら長く楽しみましょう。
ロング丈のスカートやコートで自転車に乗る
昨今、軽快でさわやかな印象のロングシフォンスカートやひざ下までのロングコートなどロング丈の衣服は定番で人気です。コーディネートによっては、細身に見せたり背を高く見せる効果もあるということで、年代や性別を問わずに好まれています。
しかし、ロング丈の衣服は日常生活の中で事故につながる危険と隣り合わせであることをご存知でしょうか。
最も身近な事例は、ロング丈の衣服を着て階段を下りる時です。ロング丈の衣服は、階段を下りる際や椅子に座る時に地面に触れてしまいます。雨の日や土が多い場所などはもちろん、一見目立った汚れのないアスファルトでも生地が地面に擦れることで、着実に生地を傷めています。これは着用している本人から見えにくいため防ぐことが難しいかもしれませんが、階段を下りる際は裾を持ち上げるなどして汚れを防止しましょう。
さらに大きな事故の事例は、ロング丈の衣服を着て自転車に乗り、衣服が後輪に巻き込まれて衣服が汚れたり破損したりしてしまうというものです。お気に入りの衣服が破損してしまうのはショックですが最も危険なのは衣服が後輪に巻き込まれたことによって転倒したり、さらにそこに車が通行して来た場合、自身が負傷する可能性があるということです。
汚れや破損などを含め、事故を防ぐにはまずその事例と危険性を知ることが重要です。
レザー(本革)製品を雨に濡らす
近年「ゲリラ豪雨」と呼ばれる、突発的で予測不能な雨が増えています。突然の雨に心配になるのは、傘や靴だけでしょうか?意外と意識されていないのが、レザー(本革)商品です。レザー(本革)は水分に触れるとシミになり、そのシミが沈着していずれは変色してしまいます。
衣服に用いられるレザー(本革)はもちろん、雨に濡れやすいバッグや靴も気を付けたいアイテムです。もし雨に濡れてしまった場合、なるべく早いタイミングでケアが必要になりますので、レザー(本革)製品を購入する時には販売員にケアの方法を確認しておくことが大切です。
フェイクレザー(合成皮革)を雨に濡らす
レザー(本革)と同様、注意が必要なのがフェイクレザー(合成皮革)です。
フェイクレザー(合成皮革)はレザー(本革)製品に比べて安価でお手入れもしやすいのですが、劣化が早いという特徴もあります。
参考:ポリウレタン素材の弱点を知る
そして雨に濡れると、その劣化スピードを上げてしまうことにもなります。
レザー(本革)が雨に濡れると「シミになってしまう」のに対し、フェイクレザー(合成皮革)は「劣化のスピードを上げる」ことになります。レザーとの大きな違いはここで、フェイクレザー(合成皮革)は劣化することが前提で、雨に濡れる機会が増えることで寿命を短くしてしまうのです。フェイクレザー(合成皮革)が雨に濡れてしまったら、なるべく早く乾いた布で水分を拭き取るようにしましょう。
シミや汚れを放置する
どんなに気を付けていても、シミや汚れが付いてしまうことがあります。そんな時、ウェットティッシュなどで闇雲に拭き取ると、シミを落とすどころか衣服を傷めてしまうことも。では、シミや汚れが付いてしまった時はどうするのが良いのでしょうか。
シミや汚れがついてしまった時の鉄則はそのまま乾燥させて手で取れる汚れだけ除去した上で、なるべく早くクリーニング店に持って行くということです。
避けなければいけないのは、闇雲に拭き取ることなどに加えて、シミや汚れを放置すること。シミや汚れを放置するとその部分の酸化が進み、シミや汚れを落としにくくなるので要注意です。
なお、クリーニング店に持ち込む際は「汚してしまった日と汚れの原因」を伝えていただくよう、ご協力ください。
紙巻タバコを吸う
「紙巻タバコ」と「衣服の寿命」に関係性があるのでしょうか。結論から言うと、直接的な関係はありません。しかし、紙巻タバコは衣服の寿命を縮める一因にはなり得ます。
それは、紙巻タバコの火種が落ちて衣服を焦がしてしまう事例です。近年は、喫煙者自体が少なくなっていることに加え、煙や灰が出ない電子タバコが一般的になってきましたが、それでも喫煙者のほとんどがまだ紙巻タバコを愛煙しているといいます。
燃えやすい繊維の場合は、小さな火種が大きな焦げを生んでしまう可能性もあります。
衣服を焦がしてしまうと修繕が困難になりますので、紙巻タバコを吸う時には注意が必要です。
アセテート素材の衣服を着て、マニキュアを扱う
様々なメーカーから、安価で色彩豊かに販売されているマニキュア。ジェルネイルに比べてハードルが低いため、セルフネイルを楽しむ方も多いと思います。しかし、セルフネイルを楽しむ時の衣服を意識している方はほとんどいないのではないでしょうか。
実はアセテートという素材は、マニキュアを落とす時に使う除光液と触れることで溶けてしまうという特徴を持っています。
サラっとした着心地のアセテートは、広く一般的に使用されているため、無意識に着用した衣服がアセテート製品かもしれません。
除光液を含ませたコットンを衣服に落としてしまう危険もありますが、最も危険なのは衣服にマニキュアが付いてしまった時に除光液で拭き取ろうとすることです。
どんなに注意していても不慮の事故は起きてしまいます。そのためにもセルフネイルを楽しむ時には、汚れても良い衣服やエプロンを着用すると安心です。
参考:洋服に付いたマニキュアを落とそうとしたら服が溶けた
衣服の着用時のポイントまとめ
- リュックやショルダーバッグは、衣服を傷める
- 習慣的にポケットに大きなものを入ないで
- 香水は直接衣服に吹き付けるのは危険
- 美容院に行く時はデリケートな衣服は避ける
- 衣服に引っかかるアクセには注意!
- 同じ衣服の連続着用は避けよう
- ロング丈の衣服は危険がいっぱい
- 本革も合成皮革も、雨に注意!
- シミや汚れは放置しない
- タバコの火種で衣服は焦げる
- 除光液でアセテートは溶ける
日常のお手入れ
ここまでは誤った着用事例を解説しましたが、ここからは日常の誤ったお手入れについて紹介したいと思います。普段無意識で行っているお手入れが、実は衣服の寿命を短くさせることに繋がっていた...なんてこともあるかもしれません。(※衣類の洗濯と保管については別のコラムで紹介します。)
ケアラベルを読まない
ケアラベルとは、洗濯方法を絵図で示した洗濯絵表示とその付記を含めた品質表示を指します。ケアラベルには、洗濯方法はもちろん、衣服を着用・洗濯する上での禁止事項や注意点が記載されています。
ケアラベルを読まないと、禁止されている方法での洗濯やお手入れを無意識でしてしまい、結果衣服にダメージを与えてしまう可能性があります。
商品を購入する際やお手入れをする際は、洗濯絵表示と共に付記用語も含めてケアラベルを確認するようにしましょう。
なお、ケアラベル(品質表示)は、商品に取り付ける事が法律で義務付けられているものです。万が一洗濯絵表示が付いていない商品があった場合は、洗濯もメンテナンスも出来ないと同じことです。クリーニング店に受け付けてもらえない場合がありますし、クリーニング事故につながる可能性も大きくなりますので、購入しない方が安心です。
洗濯の代わりに消臭スプレーを使う
今や、消臭スプレーは複数のメーカーから開発され、たくさんの種類が販売されています。中には「スプレーを洗濯の代わりに...」というニュアンスで販売している商品もあり、「スプレーを使えば洗濯はいらない」と受け取られている方もいるかもしれません。しかし、ここには大きな誤解があります。
消臭スプレーは臭いを消す効果はありますが、臭いの元となった汚れを落とす効力はありません。
つまりクリーニングや洗濯をしない限り、目に見えなくとも汚れは確実に衣服に付着していて、その汚れはゆっくりと着実に衣服にダメージを与えます。
もし、洗濯やクリーニングの代わりに消臭スプレーを利用している方がいるとしたら、それは切り離して考える必要があると言えます。
参考:消臭スプレーって汚れが落ちるの?
除菌・消毒スプレーを直接衣服に吹き付ける
消毒が日常化してきた昨今、除菌・消毒スプレーを使用する機会も増えていると思います。
ウイルスは衣服に付着した状態でも数時間生存するという研究結果もありますので、手指に加えて衣服の除菌・消毒も気になるところです。
しかしひと口に「除菌・消毒スプレー」と言っても、手指用・空間用・衣服用...と使用用途は様々です。各商品は使用用途によって成分が異なり、用途と違う使い方をした場合使用した箇所にシミが残ってしまう場合があります。
例えば、ドアノブやテーブル用の高濃度の次亜塩素酸水を衣服に用いると、次亜塩素酸水が付着した部分が脱色してしまう可能性があります。
消毒液を小さなスプレーボトルに詰め替えて携帯している方も多いと思いますが、あなたが携帯しているスプレーは「なに用」ですか?そしてそれを「なにに吹き付けよう」としていますか?詰め替える前に本体に記載されている注意事項を必ず確認し、用途を誤らないよう注意しましょう。
ブラシを活用しない
「洋服ブラシは、高級なスーツやコートに使うもの。あまり身近に感じない」と少しハードルを高く感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしいざブラッシングをしてみると、そんなに大変なことではありません。
衣服をクローゼットにしまう前にサッとブラッシングするだけで繊維の流れを整え、繊維の中に埋まったチリやホコリを掻き出して衣服の美しい状態を保ってくれるのです。
繊維の中に埋まったチリやホコリは「不溶性の汚れ」と言って水にも油にも溶けないため、クリーニング時のゆすぎの工程などで落としていくことになります。
しかし、着用の都度クリーニングに出すこともできませんから、日ごろのケアとして洋服ブラシを活用することをおススメしています。
ブラシは繊維別(例えば「ウール用」「カシミヤ用」など)に作られていますので、洋服ブラシを購入する際には確認が必要です。
日常のお手入れポイントまとめ
- まずはケアラベルを確認しよう
- 消臭スプレーでは汚れは落ちない
- 除菌・消毒液は、使用用途の確認を!
- 洋服ブラシで、気軽にホコリや汚れをオフ
もっと詳しく知りたい!という時は...
衣服の着用時・お手入れの注意点は、その衣服の繊維や使用用途などによって異なります。基本的にはケアラベルに記載されているはずですが、それ以外でわからないことやより詳しく知りたいという時は、まずメーカーに問い合わせてみましょう。
メーカーは衣服を製造する際に強度や洗濯についての様々なテストを行っていて、その結果はそれぞれ商品によって異なります。
そのテスト結果に基づいたお手入れが、もっとも正しいお手入れであると言えます。
また、クリーニングに出す際にクリーニング店に相談することも有効です。ただ、クリーニング店はどこも同じではありません。クリーニング店によっては、受付のみ行う「取次店」や、受付と工場を完全に分けている(受付の方にクリーニングの知識がない)お店もありますので、日ごろから「困った時に相談できる、頼れるクリーニング店」を決めておくと良いでしょう。
参考:クリーニング店の選び方