化学繊維は、自然界に存在している「天然繊維」とは逆に、人工的に作られた繊維を指します。また、化学繊維は大きく①再生繊維・②半合成繊維・③合成繊維に大別することができます。
ここでは、合成繊維に属する「ポリエステル」についてご紹介します。
ポリエステルについて知る
ポリエステル開発の歴史は1940年代、天然繊維に代替するものとしてイギリスで開発されたことが始まりです。
ポリエステルの原料である「ポリエチレンテレフタレート(POLY-ETHYLENE-TEREPHTHALATE)」が開発されたことで、天然繊維より安価な繊維を安定的に供給できるようになりました。
ポリエステルは溶融紡糸法という、細い穴から原料を押し出し冷やして繊維にする方法で作られます。
ポリエチレンテレフタレート(POLY-ETHYLENE-TEREPHTHALATE)は頭文字をとってPETと略されますが、この「PET」は、ペットボトルの「ペット」でもあります。つまり、ポリエステルとペットボトルは、同じ原料から作られているのです。
繊維の断面を変えれば、仕上がりも七変化
生地には、それぞれ風合いや触り心地に特徴がありますよね。
例えば絹なら「つるつる」、羊毛なら「ふわふわ」といったイメージを持たれると思います。
では、なぜ「つるつる」や「ふわふわ」の肌触りが生まれるのでしょうか。
実は生地の風合いや触り心地は、その生地を生成している、ひとつひとつの繊維の細さ・断面・形状・重さ・撚り方などによって作り出されています。
つまり、絹の繊維は生地を「つるつる」にする特徴を持ち、羊毛の繊維は生地を「ふわふわ」にする特徴を持っているということになります。
言い換えれば、繊維の細さ・断面・形状・撚り方を変えることで仕上がりの風合いや触り心地を変えることができ、仕様用途も広がっていくというわけです。
化学繊維は人工的に作られた繊維のため繊維の形状の変化が容易で、最終的な仕上がり(例えば「軽く、暖かい素材にしたい」など)を想定し、それに合わせて繊維の細さ・断面・形状・重さ・撚り方などを加工していきます。
では、ポリエステルの断面を変えたらどうなる?
文頭で紹介した通り、ポリエステルは「溶融紡糸法」という細い穴から原料を押し出し冷やして繊維にする方法で作られるので、この細い穴の形状を変えることで繊維断面の形状や細さを変えることができます。
繊維の形状を変える
そもそもポリエステルは絹などの天然繊維に代わる製品として開発されているため、基本的な断面は「絹のような光沢を出す円形や丸みのある三角形」であることが一般的です。この他には星形・楕円形・クロワッサン生地の様に何層にも重なっている様な形状もあり、断面の凹凸をよりシャープにすることで、コシのある触り心地を得ることができます。
繊維の中を空洞にする
中が空洞になっている繊維を「中空繊維」呼びます。
中空繊維は、ボリュームを出しつつも軽量化したり、保温性を高めたりすることができます。
空洞の形は、一般的な円形に加え四角い空洞などもあります。
1本の繊維に対して空洞は1つの場合もありますが、敢えて複数にしたり、切込みを入れたような形にしたりする場合もあります。
繊維の形状を変える×繊維を空洞にする
さらに三角や星形の繊維を空洞にする等、上記のパターンを掛け合わせることもあります。様々な加工を掛け合わせることにより、光が乱反射し汚れが目立たなくなる効果があります。この様な繊維は、その特徴を生かしてカーペット等に用いられます。
超極細繊維
この他にも、絹の1/100の細さである「超極細繊維」なども開発され、今やポリエステルの持つ光沢は「天然繊維をも凌駕する」と言われています。クオリティにもよりますが、絹は1本の繊維は1μ(ミクロン)や0.1μと言われていますのでこの1/100の細さというのは考えられないほどの細さです。
ポリエステルの特徴
長所
- 強度が高く、耐久性がある
- 元の形に戻ろうとする力があるので、シワがつきにくい
- 熱すると軟化し(成形しやすい)、冷やすと再び固くなる性質があるため適切な熱セットで型崩れを防止できる
- 油、カビ、虫などに影響されにくい
- 比較的薬品に強い(薬品で溶けたり反応したりしにくい)
- 吸水性及び吸湿性がないので、乾きが早い
短所
- 吸水及び吸湿性がないので、発汗時にベタつきやすい
- 染色が難しい(130℃以上の高温下で染色する)
- 静電気が帯電しやすい
ポリエステル 取扱上の注意
- 吸水及び吸湿性がないので、発汗時にベタつきやすい
- 染色が難しい(130℃以上の高温下で染色する)
- 静電気が帯電しやすい
ポリエステル 取扱上の注意
同じ合成繊維の(ナイロン)でも触れていますが、合成繊維は全体的に熱に弱いという特徴があります。
タバコやストーブなどの高温物は、たとえ接触していなくても近づいただけで溶けてしまうことがありますので、注意しましょう。
アイロンの温度も同様です。ポリエステル製品に"アイロン可"の洗濯絵表示がついていたとしても、あて布をしたりアイロンの設定を低温にしたりして注意しましょう。
また、毛玉ができやすく、除去しにくい一面があります。
毛玉は「摩擦」が原因なので、毛玉をできにくくするためには摩擦を最小限にすることが大切です。毛玉のケアについてはこちら(毛玉について)にも記載されています。
混紡は、お互いの短所を補い合える
混紡とは、複数の繊維を混ぜて紡績することを指します。
繊維にはそれぞれ長所・短所がありますが、複数の繊維を混紡することでその短所を補い合う意図があります。
例えば、先述の通りポリエステルは「吸水及び吸湿性がないので、発汗時にベタつきやすい」という最大の短所を持ちます。そこで「吸水及び吸湿性が良い」という長所を持つ綿と混紡することで、ポリエステルの短所である"吸水性のなさ"を補うことができる、というわけです。
しかし注意したいのは、その割合です。
例えばポリエステルも50%・綿も50%の割合では、ポリエステルの「吸水及び吸湿性がないので、発汗時にベタつきやすい」という短所を補えても、長所である「強度」は減少してしまうことになります。
つまり、衣類の用途に応じて、お互いの長所はそのままに、短所も補える割合を見つけ出すことが重要になります。
その代表的な割合が、ポリエステル65%・綿35%で生成された生地だと言われています。
一部では、この割合を「黄金比率」と呼ぶこともあるほどお互いの良いところを引き出した割合で、作業服やユニフォーム、普段使いの衣類にもとして使用されています。
用途に合わせた黄金割合を見つけることで、単に短所を補うだけでなく、より繊維が強くなったり新しく長所が生まれたりするのです。
混紡は、お互いの短所を補い合って用途の広がりに繋がりますが、特徴の違う複数の繊維が交ざりますので、家庭でのケアやお手入れには注意が必要です。
洗濯の際は、必ず衣類の洗濯絵表示を確認するようにしましょう。
毛玉ができないポリエステルは作れないのか
ポリエステル製品の毛玉に悩む方は多いと思います。
合成繊維の開発も進み、複数の繊維を混ぜて短所を補う混紡もようやくできるようになりましたが、それでも完全に毛玉ができないポリエステルは存在しません。
毛玉ができないポリエステルは作れないのでしょうか?
現在「毛玉ができないポリエステル」と言い切れる商品はありませんが、毛玉ができにくいポリエステルは存在しています。
本コラムの上部でも触れている通り、繊維は「細さ・断面・形状・重さ・撚り方」で肌触りや仕上がりが変わると同時に短所や長所も変化しますが、開発が進みそれらを少しずつ調整し、できる限り毛玉ができにくい繊維に近づける方法が編み出されたからです。
しかしポリエステルが本来持つ特性や、毛玉ができる要因が着用環境(摩擦の有無、洗濯の方法など)で大きく変化することなどから、「毛玉ができない」と言い切れないのです。
安価なポリエステル...でも機能性を持つと高価になる?
もともと安価で安定的に衣類を供給するために開発された合成繊維。毛玉ができにくいポリエステルを作る方法が編み出されているとは言え「毛玉ができにくいポリエステル」は普通のポリエステルに比べて一般的ではないため、高価な傾向にあります。
これはポリエステルに限らず、特別な機能性を持つ繊維全般に言えることです。
例えばここに、商品が2つあるとします。デザイン・色味・洗濯表示・組成表示含め、見た目はほとんど変わらないように見えますが、値段が違います。
もちろん金額の差の要因は様々考えられますが、安価な商品は普通の繊維で作られたもの、高価な商品は機能性を持つ繊維で作られたものという可能性もあります。
機能性を持つ繊維で作られていても、組成表示には繊維の名前しか記載できないからです。(商品によっては、機能性を持つ繊維で作られたことを示すタグを別につけているものもあります。洋服のブランド以外の、繊維メーカーのタグ等がついていたら注目してみましょう。)
買い物をする際はデザインや金額だけでなく、メーカーのポリシーや組成表示、繊維にも目を向けたいですね。